日本助産師会出版

乳信仰探訪

波野地区の集落を外れた場所に一本だけ立つイチョウ
乳房というより、乳が迸っているようにも見える「チチ」
周囲にはお花が植えられて、綺麗に管理されている

この乳の木はイチョウである。樹高29m、目通り幹周5.4m、推定樹齢200~299年と言われ、市指定天然記念物。阿蘇の市街地から離れた波野地区の集落を外れた場所に一本だけ立っており、周囲に寺社の跡のようなものは見当たらない。木の後ろには馬頭観音が祀られている。
『波野村史』には、「乳の神さん」と呼ばれたこと、お供えした米を持ち帰ってご飯を炊いて食べると乳が出ると言われた話が紹介されている。
また民話集『くさはらの里 阿蘇』には次のような話がある。昔老人のお告げで母乳が出るようになった女性が、その時にさずかった種をここに植えたところ、乳の形を持ったイチョウに育った。それ以来このイチョウを母乳の出を祈願する願掛けの木「乳の木」と呼ぶようになったと言う。
チチを乳房に見立てる話が多いなかで、ここではそうではなく、右に伸びる枝の途中から細長く白っぽい気根が3本並んで垂れている様子を、母乳がほとばしるところと見なすといいう話も伝わっているようだ。そのためチチを削って煎じるのでなく、母乳と色が似ている甘酒を供えて祈願したとのことである。

波野村史編纂委員会:波野村史、1998、p1577
家入規生:くさはらの里 阿蘇、秀巧社、1976、p102〜106
サイト「熊本の花所」 https://flower-k.at.webry.info/201212/article_10.html
サイト「人里の巨木たち」 http://www.hitozato-kyoboku.com/namino-chichi-no-ki.htm
写真:奥 起久子撮影(2021/05/07)
情報提供:阿蘇市教育委員会

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樹木(イチョウ以外)その他現存せず奉納物(乳絵馬)奉納物(乳型)存在せず摩崖仏神社樹木(イチョウ)仏像寺院仏像(堂)岩石乳神など

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