走田(はせだ)神社は、社伝によると和銅4年(711)に創祀されたというたいそう古い神社。彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)、豊玉姫尊(とよたまひめのみこと)、二人の子である鵜鸙草葺不合尊(うがやふきあえずのみこと)を祀る。豊玉姫尊は出産後に子どもを残して竜宮に帰ってしまった。妹の玉依姫がこの境内にある池の清水でお粥を作り乳の代わりにして育てたので、この池が垂乳味池と呼ばれるようになったこと、この清水で粥を作って食べた母親は乳がたくさん出るようになったという話が現地の由緒書や『新修亀岡市史』にある。
別の場所のことだが、宮崎市にある「丸目の乳岩さま*」には、彦火火出見尊と一緒に旅をしていた鵜鸙草葺不合尊がお腹をすかせ、玉依姫が岩から滴っているお乳を竹筒に汲んで飲ませたという話が伝わっている。ネットも本の出版社もない時代に、京都と宮崎の山の中にどうやって似たような情報が伝達されたのだろう。*https://www.midwifepc.co.jp/column/2024/01/19/marumenochichiiwa/
周囲は水田地帯で、以前神社は鬱蒼とした森に囲まれていたが、2019年の台風で多くのスギが倒れて、建物にも被害が生じていた(2021年7月取材)。なお、本堂前の弁財天社の池を垂乳味池と紹介しているサイトがあるが、垂乳味池はこれではなく少し離れた所の木立の中にある。水量が減少して濁っており飲用には適さない。
亀岡市史編さん委員会:新修亀岡市史 資料編第4巻、1996年、p638〜639
永光尚:盥魚と庭落葉、亀岡文化財保存会、2008年、p185〜187
サイト「京都通百科事典」https://www.kyototuu.jp/Jinjya/HasedaJinjya.html
サイト「玄松子の記憶」 https://genbu.net/data/tanba/haseda_title.htm
ブログ「神社と古事記」 https://www.buccyake-kojiki.com/archives/1062314339.html
写真:奥 起久子撮影(2021/7/22)


