乳信仰探訪

寺領観音堂のイチョウ

平安時代にここ丹後半島の最深部に仏教の大寺院があり、そのゆかりのイチョウという
イチョウの根元に残る古い石造物が信仰を物語っている

樹高27m*、目通り幹周8.3m*の古木で、樹齢は数百年とあるが不明。8本の幹が集まった株立ちのイチョウで、丹後半島の奥にある戸数数軒の寺領集落の中を通って林道を進み、さらに右へ分岐する林道を登っていった山林の中にある。狭い林道脇に車2台分程度のスペースがある以外は立て札も何も目印になるものはなく、草をかき分けて登っていくとイチョウと鳥居と建物が見えてくる。根元に「澄朝明神」の小祠が安置されている。
このイチョウの皮を削りとって煎じて服用すると乳が出るようになるといわれ、遠くからも来山して樹皮を剥ぎ持ち帰る風習があったと『京都府與謝郡誌』『伊根町史』にある。1991年環境庁のデータベースには、乳の木、信仰ありと記載されている。
平安時代にはこの寺領一帯には恩教寺という大伽藍が建立されていたと伝えられるが、室町時代にはすでに衰退したとのことで、現在は観音堂とイチョウと石の鳥居を残して山林に帰っている。寺領の名称はこの恩教寺の寺領であったところからきているという。平安時代にこのような丹後半島の最深部に仏教の大寺院が存在していたことや、地元の人々が鳥居を建てるなどここを守ってきた歴史があることや、イチョウと乳の祈願が伝えられてきた悠久の年月に思いを馳せられる場所。
*1991年環境庁データベース

與謝郡役所:京都府與謝郡誌 下巻、名著出版、1972年、p1071 https://dl.ndl.go.jp/pid/9572615/1/245
伊根町誌編纂委員会:伊根町誌 下巻、伊根町、1985年、p707 https://dl.ndl.go.jp/pid/13132324/1/371
サイト「巨樹と花のページ」 http://www.tree-flower.jp/26/jiryo_icho_706/jiryo_icho.html
サイト「丹後の地名」 http://tangonotimei.com/doc/nomura.html
写真:奥 起久子撮影(2022/10/16)
資料提供:伊根町教育委員会

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