乳信仰探訪

旭(栂の本)の薬師さん

栂の本集会場に祀られている仏像たち(中砂元伸氏提供)
旭地区の外れにある八王子神社から集会場と集落を望む

十津川村旭地区にある栂の本(とがのもと)に薬師如来が祀られているお堂があり、耳・目・乳にご利益があった。乳の出を祈願する人は、お礼に乳を搾って椀に受けている絵を紙に描いて貼る、もしくは糸ほど続くようにと糸を奉納する人もいたという話が『十津川郷採訪録』にある。
耳・目の場合には、耳石という穴の開いた石に糸を通して吊るす、「め」という字を1枚の紙に100字書いて貼る、昔は旭だけではなく宇宮原・谷瀬などからも祈願にお参りする人がおり、お礼にゴクマキ(餅撒き)をすることもあったという話も書かれている。
薬師如来は高さ約10cm(別の資料では12cm)木造、金箔塗りの小さいものだが光背もあり、脇仏として高さ14cmの極彩色の日光・月光菩薩が左右にいて薬師三尊の形を取っており、12神将が一緒に新しい祠の中に保存されている。元禄6年(1693)の古文書に、喜楽寺の境内にある薬師堂で、古くからこの村に伝わるものだが開基等不明という記載があり、大変古いものらしい(『十津川の寺跡をさぐる』)。
そばにある八王子神社は900年ほどの歴史があり(地元の方によると1337年設立)、薬師堂のあった場所は八王子神社の行事を行う場所だった。十津川村は明治の廃仏毀釈によって全ての寺院がなくなったという全国でも珍しい場所という。
現在お堂は栂の本集会場(公民館)になり、薬師如来はその中に祀られている。ここは以前数十軒の集落だったというが現在3軒のみになってしまった。「め」の字等を書いた紙は近年奉納したものが集会場内に残っているが、乳の祈願の伝承は残っていないとのこと(2024年1月取材)。

横谷正光:十津川の寺跡をさぐる、十津川村教育委員会、1991年、p112〜113、p519 仏像情報のみ
林 宏:十津川郷採訪録 民俗2、十津川村教育委員会、1993年、p20
写真:奥 起久子撮影(2024/1/16)、中砂元伸氏提供(2024年4月撮影:十津川村旭在住)

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