国道42号線沿い、コメリ南紀店向かいの道端に立っている、澤信坊(たくしんぼう)が寄贈したという石地蔵で、姫の地蔵とも呼ばれる。乳授けのご利益があるというので、遠方からも祈願に来る人がいる。そのお礼参りの際には地蔵に前だれを献納する習しで、何十枚かの前だれが重ねられていると『養春小学校100年のあゆみ』、国土交通省サイトにある。
乳の祈願とは関係ないが、この地蔵にまつわる次の話もある。8代将軍徳川吉宗時代の享保12年(1727)頃のこと、太地浦の鯨舟が姫の松原に上陸して一休みした時、若者たちがこの地蔵を鯨に見立てて銛を投げて突く稽古をした。その翌日漁に出たところ、銛を打ち込んだ大鯨に引きずられて、30名ほどの漁師が行方不明になってしまった。これはこの地蔵の祟りということになり、太地の人たちは新しく地蔵尊を寄進して亡き人の冥福を祈ったという。
その後、道路拡張などで何度も位置が変わったあと、現在の場所に祠が建てられた。道標地蔵でもあり次の文字が記載されている。
右ハわかやまみち 享保十二丁未(享保12年は1727年)
左ハみさきみち 願主 太地浦 澤信坊
なお串本海中公園レストラン(串本町有田1157)前にも澤信坊の道標地蔵といわれる地蔵があって町指定文化財になっているが、こちらには乳の祈願の情報がない。
養春小学校創立百周年記念事業実行委員会:養春小学校100年のあゆみ、養春小学校創立百周年記念事業実行委員会、1979年、p95
国土交通省サイト「日本風景街道」https://www.kkr.mlit.go.jp/kinan/fukeikaidokumano/kumano/area8/02-ooheji.html
サイト「弘法湯案内」https://web.archive.org/web/20041118114239/http://f12.aaa.livedoor.jp/~koubouyu/zizou.htm
写真:奥 起久子撮影(2024/10/11)
情報提供:NPO法人「市民の力わかやま」