熊野本宮大社旧社地から音無川を遡ったところに、「ちごの谷」という乳子大師(ちごだいし)もしくは子安弘法といわれる石仏を祀った場所がある。石仏の上方の岩壁には、「ちちさま」と呼ばれる乳房を思わせる2つの丸い石が並んでいる。乳古良石(ちごらいし)といわれて、おっぱいの神さま、子育ての神さま、安産の神さまとしてお参りされてきたと『本宮町史』にある。
これは堆積岩中に析出したノジュールといわれる自然の造形物。江戸時代の『紀伊続風土記』には、「ちごら石、音無川の上、山中にあり、竪四間横六間の石なり、真中に乳の形二あり乳少き婦人立願すれば、自然の乳出つといひ伝ふ」と記されている。
ここには長さ1尺の12本の白い糸に餅や菓子を添えてお供えして願掛けをする、という話がサイト「み熊野ネット」「日本の奇岩百景プラス」『本宮村あちこち』にある。乳の出る道は12あるといわれていることによるとのこと。
この十二筋乳道の話は、他の地区にも伝わっている。福井県丹生郡に伝わる話として『日本産育習俗資料集成』に十二筋乳道と記載(p345)。奈良県下北山村の小口の乳授け地蔵には、木綿糸12筋をお供えするとある。静岡県御殿場市の浅間神社・聖神社には、明治19年(1886)に奉納された乳型立体絵馬があり、乳頭から垂れている糸の数は12本ずつである。
和歌山縣神職取締所:紀伊続風土記 第3輯、行政學會出版部、1910年、p185 https://dl.ndl.go.jp/pid/765519/1/116
本宮町史編さん委員会:本宮町史 文化財編・古代中世史料編、本宮町、2002年、p106~107
松本 勤:本宮村あちこち、自費出版、p8〜9
み熊野ネット http://www.mikumano.net/meguri/tigo.html
同上 動画 https://www.youtube.com/watch?v=LF9csRzh20s
サイト「日本の奇岩百景プラス」https://www.web-gis.jp/GS_Kigan100/html/Kigan100_062pc.html
写真:熊野本宮観光協会、内岡 恵撮影(2024/10/11)