住宅街に立つ立派なお堂で、中に祀られているのは、石の小さいお地蔵さまである。上(かみ)地蔵尊もしくは上村(かむら)地蔵尊と呼ばれる。家内安全、無病息災、とくに安産と母乳の出をお願いすると霊験あらたかと言い伝えられていると、現地に表示されている「上村地蔵尊縁起由来」に記載されている。
行基の乳母であった上村の照という女性が、行基から貰い受けた地蔵尊を安置してお堂を建てて祀ったのが最初という。この地蔵尊を井戸に投げ込んでしまったものがいて一時忘れられていたが、正保3年(1644)に井戸の中から呼ぶ声を聞いた村人の弥兵衛が地蔵尊を引き上げて堂を再建して祀り、乳の祈願の対象となったという話が『摂河泉文化資料』にある。
『近畿の民間療法』には、「上村の乳地蔵」と呼ばれ、行基が乳母のために建てたもので、乳貰いだけでなく乳を止めたい時にも祈願するとあるので、乳預けの祈願もあったのであろう。
数十年前頃までは、前に土俵が組まれて村相撲の練習が行われ、夏には盆踊りが開催され、「上村の地蔵」と呼ばれ有名であった。現在のお堂は平成12年(2000)に建て替えられた新しいもの。
倉田正邦ほか:近畿の民間療法、明玄書房、1976年、p113 https://dl.ndl.go.jp/pid/12169957/1/60
北村文庫会:摂河泉文化資料3巻〜4巻、1978〜1979年、p24
三村正臣:お地蔵さんあれこれ、ウーマンライフ新聞社、2002年、p31
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写真:内岡 恵撮影(2023/5/16)