


室生寺金堂の左に弥勒堂がある。ここの客仏としてよく知られている国宝・釈迦如来坐像に乳の祈願が行われていたという情報がある。現在は新しい宝物殿に移されているが、2019年までは、弥勒堂本尊の弥勒菩薩像のむかって右にこの釈迦如来像が安置されていた。乳の出を祈願する女性たちが布で作った乳型を奉納し、以前は弥勒堂のなかに多数納められていたそうだ。
また女性たちが釈迦如来の立派な胸(おっぱい)に触れて祈願していた時代があったらしい、という話が元奈良国立博物館の学芸部長で仏像研究家の西山 厚氏によって紹介されている[注:乳を撫でたという話は例えば品川区寄木神社の鏝絵天鈿女命(こてえあめのうずめのみこと)功績図の乳を撫でたとようにいろいろな場所にある]。釈迦如来像に向かって左の板壁に無数の乳型の跡がついていて、布の乳型が一組だけ残されている写真がブログと『仏像に会う』で紹介されている。この最後の乳型はお堂の改修工事を行なった際に壁から取り外されて、現在は弥勒菩薩の前の机の上に置かれている(2023年7月訪問)。
室生寺は奈良時代末に僧賢憬(けんけい)が創建。江戸時代の元禄になって5代将軍徳川綱吉の生母桂昌院の庇護を受けて再興された。女人禁制だった高野山金剛峰寺に対して、女性の参詣が許可されていたので、女人高野と呼ばれて多くの女性が参拝した。境内には五重塔や金堂をはじめとする多くの国宝、重要文化財の建造物、仏像があり、仏教美術の宝庫と言われる。
西山 厚:仏像に会う 53の仏像の写真と物語、出版社ウエッジ、2020年、p109〜111
ブログ「ほんのひととき」2020年10月13日 https://note.com/honno_hitotoki/n/n9461b547b2a9
Magical Mystery Nara Tour: 室生寺のおっぱい信仰?http://naratour.blog.jp/archives/1065921356.html
写真:西山 厚著『仏像に会う 53の仏像の写真と物語』より(出版社ウエッジ提供)、奥 起久子撮影(2023/7/15)