乳信仰探訪

この薬師堂は十二社神社の境内にある。
沢山の乳絵馬が残されている。
乳の祈願に穴の開いた石をお供えしたとある珍しいもの。
授乳の仏「寺尾薬師」と資料に記載されている。

十二社神社(大山神社とも)境内にある薬師堂のお薬師さんは乳の神様で、子どもができたら安産祈願も含めて乳がたくさん出るようにと、村内村外から大勢おまいりがあったといわれる。
『吉野川上村史』には、東向きの白薬師として寺尾の氏神の薬師堂に安置されており、坐像3尺(約90cm)、光背・台座を含めると7尺(約210cm)、授乳の仏「寺尾薬師」として祈願されていたことが多くの奉納額によってわかると記載されている。奉納額とは絵馬のことで、ここには江戸時代以降昭和までに奉納された絵馬が55枚ほど保存されており、そのうち少なくとも30枚が授乳や搾乳の乳絵馬である(2024年1月取材)。
『清流の語りべたち』『川上村昔ばなし』には、元々ここは乳の神さんで、安産祈願・乳の出の祈願に村内だけでなく吉野町からも大勢の人が来てお参りした。他になんでもお祈りした。祈願には穴の開いた石を探して繋いでお供えしたと書かれている。
穴の開いた石は耳石と呼ばれて耳の祈願に用いられるのが普通だが、この記載を見ると乳の祈願にも奉納されたのかと思ってしまう。というのは、和歌山県印南町の乳の地蔵さんは乳の祈願に特化した地蔵だが、現地には耳石ばかり何十個も奉納されているのである。耳石が乳の祈願で奉納されることがあった可能性を示唆する情報があるのはこの2箇所のみである。

福島宗緒:吉野川上村史、川上村役場、1941年、p456
森と水の清流館:清流の語りべたち、森と水の清流館、2004年、p33
奈良県吉野郡川上村広報「かわかみ」編集委員会:川上村昔ばなし、2007年、p88
石田和美・石田 稔:川上村探訪、2013年、p46  https://dl.ndl.go.jp/pid/1042199/1/259
川上村史編纂委員会:川上村史 通史編、川上村教育委員会、1989年、p758 https://dl.ndl.go.jp/pid/9576544/1/404
写真:奥 起久子撮影(2024/1/16)

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