乳信仰探訪

高福寺は集落の外れ、坂道を登って行ったところにある
建て替えられて寺院のようではない印象だが、鰐口や賽銭箱が横にある

和歌山県との県境に近い野迫川村、民家の横の細い坂道を登った場所に高福寺がある。むかし弘法大師が高野山を作る際にここを訪れ、村に伝染病が多くて困っていることを知り、病気を封じるために一夜で桑の木から薬師如来を彫り出したと言い伝えられている。乳薬師、桑の木薬師とも言われて、母乳を出したり、要らない時に預かってもらったり、というご利益があると『野迫川村史』にある。
その際には白糸一枷とお米を供えて、「この糸のように乳を授けてもらうよう」祈願し、子どもが死んでしまったり、乳が張って難儀したりする場合は「乳を一時預かってください」と祈願すると記載されている。白糸をお供えする風習は近くの十津川村旭地区でも記載されている。和歌山県田辺市の「ちちさま」と奈良県下北山村「小口の乳授け地蔵」では白糸を枷ではなく12本供えるという風習があり、紀伊半島のみに伝わっていることは興味深い。
乳の祈願に関しては、『大和の伝説』『吉野西奥民俗探訪録』にも収載されている。
野迫川村は奈良県でも一番山深い場所にあって冬の寒さが大変厳しいところ、高野山にも近い場所で、高野豆腐はここから広がったと資料にある。

奈良県童話連盟・高田十郎編:大和の伝説、大和史蹟研究会、1960年、p514
野迫川村史編集委員会:野迫川村史、野迫川村、1974年、p680〜681
宮本常一:吉野西奥民俗探訪録、未来社、1989年、p395
写真:奥 起久子撮影(2024/1/16)
取材協力:野迫川村教育委員会

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