内原は周囲を山に囲まれた山村の集落である。旧・内原小学校の向かいの旧家の裏に村を見渡せる小高い丘があり、その上の石で囲んだ石窟内に乳の祈願が伝えられる薬師如来が祀られていると『十津川郷採訪録』にある。
それによると、耳と乳のご利益があり、耳の人はミミイシ(穴の開いた石)を供え、乳の出んし(衆)は乳が出るよう願い、乳が余って困る人は乳を持って行って供え、次の子ができた時によく訳を言ってタバリ(お供えを下げる意)に行ったという。乳授け祈願だけでなく、乳預け祈願もあったようだ。
丘の上に北から順番にお薬師さん、山の神、庚申さま、森の神の4体が西を向いて祀られているとのこと。山の神の日(霜月7日と正月7日)に庚申さんと一緒にお餅や白米を供えたてお祀りしていたそうだが、薬師さんなので薬師の日(正月8日)に参る人もいたと資料にある。
現在集落は過疎化のため8軒となり、乳や耳の祈願の話は伝わっていないようだ。ミミイシが周囲にないか探したが見つけられず、お祀りしているのは4体と書かれているが3体になっている(2024年10月取材)。
お薬師さんは風化が激しく下半分は腐蝕していたが、取材を契機に集落の人たちが新しいお薬師さんを祀ることとなり、神主さんを招いてお祭りをしたという連絡があった(2025年5月)。
林 宏:十津川郷採訪録 民俗2、十津川村教育委員会、1993年、p224
写真: 奥 起久子撮影(2024/10/12)、森崎隆夫氏提供(十津川村内原在住)