県道29号線に面し、市の中心街にある寺院。『牟婁口碑集(むろこうひしゅう)』に門内東側にある石地蔵が乳地蔵で、乳を欲しいものが祈願するだけでなく、子どもが亡くなって乳が出て困る場合にも祈願したと記載されており、乳授けのみならず、乳預けの祈願がされたことがわかる。
地蔵はコンクリート作りで屋根と壁のみの建物に収められている。標識や案内はないのだが、「乳地蔵 平成18年(2006)」と書かれた奉納物があるので、関係者にはこれが乳地蔵であることは知られているのであろう。地蔵が手に持っている丸いものは乳であろうか?
海蔵寺は山号を慈航山という臨済宗妙心寺派の寺院で、慶長10年(1605)田辺城主の浅野氏重の開基といわれる。
建物は鉄筋コンクリート造りの耐火建築になっている。武蔵坊弁慶の父親である熊野別当湛増が軍船に安置したと伝えられる木造弁慶観音(県指定文化財)があることで知られる。
雑賀貞次郎著: 牟婁口碑集、郷土研究社、1927年、p46
写真:内岡 恵撮影(2024/10/10)