乳信仰探訪

以前は堂内に祀られていた延命地蔵で、乳の祈願が伝わる
以前あったお堂で、前に石の乳房型の奉納物が見える(檀家の方提供)
室町末期創建と言われる済広寺

済広寺は美浜町の市街地にある。和田の済広寺の延命地蔵にお米を持って参り、乳が出るように祈願したという話が『美浜町史』に書かれている。
副住職からの情報によると、寺院で乳についての法要を行うことはなかったが、大正生まれの檀家の方から、お米や重湯をお供えして乳の出を祈願する、あるいは乳離れに際して搾った乳を供えるとうまくいくと言われていたという話を聞き及んでいるとのことであった。また以前地蔵がお堂の中にお祀りされていた頃、石の乳型らしい奉納物が置かれていたことがあったという(2024年10月取材)。
乳離れに際して搾った乳を供えるというのは「乳預け」といわれる。乳は貰うだけでなく預けるという風習があり、なぜか近畿地方を中心に少し見られるのみで九州や東日本では全く知られていない。近くの御坊市、田辺市の乳預けは資料に記載があるが、この場所の乳預けは伝承のみ。この周辺の多くの場所に乳預けの伝承が残っていることは大変興味深い。
延命地蔵は石造りで正門を入った左にあり、寺院のサイトでは地蔵と記載されている。台座を含めて高さ95cmの半伽趺坐(はんかふさ)像で、左右に小さい石仏が控えている。お堂が平成30年(2018)の台風21号で壊れるまでは、中に安置されていたとのこと。
済広寺は山号を海北山という浄土宗の寺院で、ご本尊は阿弥陀如来。開山時期は不明だが、室町末期と『日高郡誌』にあるという。175年前の天保14年(1843)に上棟したとの記録が残っている本堂は平成30年(2018)に改築されたばかりで、行事やお参りなどが盛んに行われている。

済広寺公式サイト https://saikou-ji.com/collection/
美浜町史編集委員会:美浜町史 下巻、美浜町、1991年、p114 https://dl.ndl.go.jp/pid/9576634/1/604
写真:奥 起久子撮影(2024/10/10)、檀家の方提供(2017/12撮影)
情報提供:増田恭穂氏(済広寺副住職)

カテゴリー

内容

県名検索